国立感染症研究所http://www.nih.go.jp/niid/shapeimage_1_link_0
 

研究内容(トキソプラズマ編)

 次にトキソプラズマの研究についてです。トキソプラズマは細胞内寄生性原虫ですが、その宿主細胞への進入及び脱出に関わる様々な分子機構のタイミングの調節に細胞質内Ca2+を用いていることが知られています。私たちはトキソプラズマにおける生化学的解析から、多細胞動物で知られているCa2+放出チャネルryanodine receptorと、そのセカンドメッセンジャー、cyclic ADP-riboseの存在、更にcyclic ADP-ribose産生酵素及び分解酵素活性の存在を証明することに成功しました(Biochem. J. 2005)。

12:Ryanodine receptorのアンタゴニストはトキソプラズマ原虫の運動を濃度依存的に阻害した。(12.jpg) 図13:Ryanodine receptorのアンタゴニストは原虫の運動中におこることが知られているカルシウム濃度のオシレーションも阻害した。(13.jpg


そこで私たちは最近完成したトキソプラズマ及びトキソプラズマと同じアピコンプレックス門に属するマラリア原虫とクリプトスポリジウム原虫のgenome databaseからryanodine receptorを含む既知のすべてのCa2+調節分子遺伝子の同定を試みました。その結果、これらの原虫からは、植物と同様に既知のryanodine receptor及び同様のCa2+放出チャネルであるIP3 receptorが同定できませんでした。また、これらの原虫が多数の植物型のcalcium-dependent protein kinases (CDPK)を持っていた事と合わせて、これらアピコンプレックス門の原虫のCa2+調節機構は植物のシステムと似ている可能性が示唆されました。また解析した他の原虫と比べた時のトキソプラズマの特徴としては、plasma membrane-typeのCa2+ATPaseとvoltage-gated Ca2+channelが存在すること、そして前述のCDPKがおそらく20以上と群を抜いて多いことが挙げられました(Mol. Biol. Evol. 2006)。

14:現在までに明らかになっているトキソプラズマ原虫におけるカルシウム濃度調節機構。(14.jpg) 図15:トキソプラズマ、マラリア、およびクリプトスポリジウム原虫のゲノム情報から明らかになった各原虫におけるカルシウム濃度調節機構の比較。(15.jpg


更に私たちは、トキソプラズマが植物ホルモンとして知られているアブシジン酸を産生していること、アブシジン酸がcyclic ADP-riboseの産生を促進し、その結果トキソプラズマ細胞質内のCa2+濃度を上昇させていること、またそのCa2+濃度制御が主にトキソプラズマの宿主細胞からの脱出を制御していることを明らかにしました。更にアブシジン酸の生合成阻害剤として知られているフルリドンはトキソプラズマでもアブシジン酸生合成を阻害し、フルリドン処理によりトキソプラズマは宿主細胞からの脱出が阻害され、その結果、宿主細胞内でシストへの分化が誘導されました。また、フルリドンはトキソプラズマのマウスへの感染を有意に抑えたことから、このアブシジン酸生合成経路は抗トキソプラズマ薬開発の良い標的になる可能性が考えられました(Nature 2008)。

16:植物ホルモン、アブシジン酸の生合成阻害剤はトキソプラズマ原虫のマウスへの感染を阻害した。(16.jpg) 図17:アブシジン酸生合成阻害剤により誘導されたシスト。(17.jpg) 図18:トキソプラズマ原虫にとってアブシジン酸は宿主細胞からの脱出やシストへの分化のタイミングを決める重要なシグナルとして機能していた。(18.jpg


一方で私たちは、抗マラリア薬として知られているartemisininが、 トキソプラズマ原虫内で、細胞質からERへCa2+を輸送するCa2+ポンプであるSERCAを阻害しているということを明らかにしました。トキソプラズマSERCA (TgSERCA)の活性は、酵母及び、アフリカツメガエルのオーシスト内においてartemisininにより有意に阻害されました。またartemisininは明らかに原虫細胞質内Ca2+濃度を上昇させ、そのことによりトキソプラズマのCa2+濃度依存性タンパク質分泌がnon-organizingな形で促進されました(Eukaryotic cell 2007)。しかしながらトキソプラズマ原虫を変異原処理することにより得られたartemisinin耐性原虫には、TgSERCAを始めとする前述の研究によって私たちが同定したCa2+ポンプ遺伝子群の塩基配列やその発現量に変化は見いだせませんでした(Antimicrob. Agents Chemother. 2007)。以上のことよりartemisininはトキソプラズマ原虫に対してTgSERCA以外の未知の標的分子を阻害することにより原虫内のCa2+ホメオスタシスを破壊し、原虫を殺傷しているのではないかと考えられました。

19:抗マラリア薬、artemisininは漢方薬の原料となるArtemisia annua(クソニンジン)から発見された。(19.jpg) 図20:アルテミシニンはアフリカツメガエルのオーシストにおいてTgSERCAの活性を阻害した。(20.jpg) 図21:私たちが確立したアルテミシニン耐性トキソプラズマ原虫はアルテミシニンおよびその誘導体に対し耐性を示したが耐性の度合いは誘導体によって異なっていた。(21.jpg) 図22:トキソプラズマ、マラリアおよびクリプトスポリジウム原虫のゲノム・データベースから同定したカルシウムポンプおよびカルシウムチャネルとそれらの予想される局在。私たちはアルテミシニン耐性クローンにおいて、トキソプラズマ原虫の全てのP-typeカルシウムチャネルの塩基配列とmRNAの発現を検討したが野生株との差は認められなかった。(22.jpg



TOPTop.htmlTop.htmlshapeimage_4_link_0
研究内容(1)%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%86%85%E5%AE%B9%281%29.html%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%86%85%E5%AE%B9%281%29.htmlshapeimage_5_link_0

Map

マラリアとは%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%81%AF.html%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%81%AF.htmlshapeimage_6_link_0
RecruitmentRecruitment.htmlRecruitment.htmlshapeimage_7_link_0